モブ中のモブとして召喚されました32

俺達は一日かけて関の近くまでたどり着いた。 

 空が白むころに見る関は岩でできた要塞だった。 

 俺達のいる位置は周りに比べて高い土地であるはずなのだが、そそり立つ壁はそこよりもさらに高い。この上に、湖があるという。 

 「すごい落差だな」 

 俺は眼下に流れているだろう闇に沈んだ川をのぞき込んだ。 

 光のまだ届かない谷底はまだ夜だった。 

 関の上にはいくつもの灯りが見えた。 

 誰かがまだ夜の松明をたいているのだ。誰かが戦っているらしい気配はしない。 

 さすがに夜ここに攻め込むような真似はできないのだろう。 

「確か、ぐるりと回り込んだところに村があるの。村といっても要塞の一部みたいになっているけれどね」 

 リースも幼いころに二三回来ただけだという。 

「中がどうなっているのかは、わからないのか?」 

「あたしは父さんに連れられて、馬を納めにいっただけだから。村の中にも入ったことはないの」 

 ゴローやサクヤが念入りにあたりを警戒しながら、ゆっくりと裏道をたどっていく。 

 しばらくして、ゴローが馬を止めた。彼はそのまま馬から下り、俺達にも促す。 

「広い道に出た」 

 馬を後方につないでから、ゴローは先の道を偵察する。 

「人はいない」 

 馬車が通れるほどの幅のある踏み固められた道だった。 

 この砦にクリアテス側から入る正規の道なのだろう。朝の鳥の声があたりに響き、道の上にまだもやの残りが漂っていた。とても戦闘が行われている場所のようには思えない。 

 道は金属で固められた門の前まで続いていた。 

 その前は木が切り払われ、ちょっとした広場になっていた。 

 ここにも全く人影がない。馬止めもあるが、一頭の馬もいなかった。 

 ここしか入り口がないようなので、俺達はこっそり脇の潜り戸のところへ走り寄る。 

「?」 

 驚いたことに、扉には鍵もかんぬきもかかっていなかった。 

 ゴローが中を見て、首を振る。罠の類いもなさそうだ。 

 俺達は何事もなく関の町に侵入できた。 

 町は静まりかえっていた。外の森のほうが鳥の声で騒がしかったと思えるほどだ。 

 俺達は理不尽に曲がりくねった道を駆け上がった。 

「おかしい」 

 俺は三人を枝分かれした裏道へ招き入れた。 

「いくら何でも静かすぎる。この町の住民はどこへ行ったんだ?」 

 いくら要塞と課した軍事拠点でも、兵士以外の人は必ずいるはずなのに。そんな人の生活を感じさせる音が何一つしない。食べ物の匂い、煙の匂い、排泄物の匂い、そういう人の集まるところにつきものの生活から出る匂いもあまり感じられない。 

 まるで死者の町のようだ。 

 俺は思いきって鍵のかかっていなかった扉を開けて中をのぞいた。 

 生活感のある部屋だった。テーブルの上には食べかけの肉が放置され、洗っていない杯や酒瓶、それに雑然と椅子の背にかけられた服や下着。 

 だが、肉片は乾いており、杯のそこに残った酒は乾きかけている。 

 人はいない。 

 音がするのもかまわず、次の家の扉を開ける。次の家も、その次の家も。 

 ここで働いていた人達が暮らしていたであろう部屋には人の痕跡が残っていた。 

 でも、どこにも人の姿はない。 

「なんだ、この町は?」 

「こっちにも、いない」 

 別の通りで人を捜していたゴローと合流した。 

「ここにいた人達、誰もいない」 

「来て、こっち」 

 サクヤが呼ぶ。 

 俺達はサクヤの声のする方に走る。 

 サクヤは奥まった塀を開けて立ち尽くしている。 

 奥には広い庭が広がっていた。もともとは野菜畑だったらしい。 

 そこで作業をしている人がいた。 

 感情のない生気の薄い幾人もの人達が働いていた。“ナンバーズ”だ。皆一言も口をきかずに、ただひたすら穴を掘っていた。 

「何かあったの?」 

 遅れて走ってきたリースを、俺は扉から押し出した。 

「な、なによ」 

「見るな。おまえが見るもんじゃない」 

 強烈な匂いが漂っていた。隠しようのない死の匂いだ。 

 扉の隙間から見てしまったのだろう。リースが口を押さえて、よろめいた。 

 サクヤが素早く彼女を支えて、匂いの届かない場所に連れて行く。 

 俺はゴローと顔を見合わせて、扉を閉めた。 

 リースが落ち着けるように、家の中に入って、飲めそうな水を探す。 

 井戸の水をくもうとすると、ゴローが険しい顔で首を振った。 

 仕方なく、まだ封の切られていない酒樽を見つけてなみなみとついだ。 

 リースはそれをごくごくと飲んだ。 

「どうする? 監督官。これ以上奥に入るか?」 

 顔色が戻ってきたリースに俺はきく。 

 リースはうなずいた。 

「見たくない物を見ることになるかもしれない。それでも行くか?」 

「いくわ」 

 青い顔をしたリースが、それでも気丈に顔を上げる。 

 しかたがない。だが、どうしてもここから先に進まないほうがいいという思いが捨てきれない。 

 俺達は砦の中に入る道を捜した。裏口のようなところからこっそりと内部に侵入する。 

 そこは厨房だった。人気のない厨房を抜けて扉を開ける。 

 そこは戦場の後だった。 

 あちらこちらに、血の跡が残っていた。廊下に障害物を作ったのだろうか、家具が山になって積み重ねられている。目の前にある扉を開けようとしたが、中で何かが引っかかっているようで開かなかった。 

「奥の方、まだ、戦ってる?」 

 ゴローが首をかしげて音を拾った。 

「ここ、術、使いにくい。精霊、いない?」 

 サクヤが眉をしかめている。 

「たぶん、術妨害の結界だと思う。砦とか拠点にはそういう工夫がされていると聞いたことがある」リースが思案するように首をかしげた。「どうしよう」 

「ゴロー、罠があるか確かめてくれ」 

 ゴローはうなずいて、先に進む。 

 俺達は慎重に先を目指した。 

 別の大きな扉を押すと、こちらは開いた。 

 中は食堂のようだ。机や椅子が散乱している。 

 大きな部屋だった。はす向かいにも半分壊れかけた扉が見えた。 

 その脇で誰かがうずくまっているのに気がついた俺は用心して近づく。 

 小柄なまだ若い男だった。 

“ナンバーズ”仲間だ。直感的にそう思う。 

 おそらく歩兵種か斥候種なのだろう。床に血だまりができていた。これは、もう助からない。そう思った。 

 しかし、男は俺達の気配に気がついて目を開けた。 

 彼にも敵ではないとわかったのだろう。すぐに目を閉じてしまう。 

「おい、何があった」 

 俺は尋ねた。 

「誰と交戦したんだ?」確か、斥候種は報告することができたはずだ。「報告しろ」 

 俺は付け加えてみた。 

 反応はなかった。 

「監督官、あんたが聞いてみてくれ」 

 リースは男の側に膝をついて、同じことを男に聞いた。やはり、男は答えない。 

「リース、彼の監督権を書き換えられないかな? そうしたら、話ができるのではないかと思うんだ。彼が俺たちと同じ歩兵種だったら、書き換えることができるんじゃないか?」 

 リースは首を振った。 

「たぶん、上位種だから無理だと思う。それに、わたし、やり方を知らないし・・・あんた達の時はコルト様が書き換えてくれたの。たしか認識番号が必要だったような気がするの」 

「でも、あのクソ技術官は、番号も知らずに俺を殺しかけたぜ」 

「彼は上級技術官よ。ナンバーズの組織の上の方の人でしょ。わたしたちの知らないやり方を知っていたんじゃないかな。・・・それに、あんたの番号は知っていたと思うわ。なんどもあいつの前で番号を呼んだじゃない」 

「彼はもう、駄目」サクヤが残念そうにいう。「なにか、いいたい?」 

「看取りの儀式、するか?」 

 ゴローがきく。 

「なんだよ、それ?」 

「人が死ぬときに、する儀式。聖句を唱える、祈る」 

 そんな物があるとは知らなかった。 

「そうだな、聖歌でも歌おうか」 

 死んでいく兵士に俺達ができるのはもうそれくらいしかなかった。 

 ゴローが聖句を唱え、サクヤが小さな声で歌う。リースは男の手を胸の上で組ませた。 

 そういえば、今まで一度もこうして仲間を送り出すことはなかった。 

 ただ、殺して、仲間の死体を残して、立ち去って・・・死んでいった仲間の遺体はどうなったのだろう。 

 俺は頭を下げる。死んでいった者達のために。 

 俺達が祈り終わるまで、彼らは動かなかった。 

 彼らは何を思って俺達が祈りを捧げるところを見ていたのだろう。 

 振り返ると、無表情な顔が並んでいた。感情を持たない“幽霊”達がそこにいた。 

「祈りを捧げていたのか?」 

「ああ」 

 俺は答えた。 

「あんたも祈ってくれていたかな。俺達の仲間のために」 

 コルト監督官が彼のナンバーズに混じってこちらを見ていた。 

 とても疲れた顔をしていた。 

 薄い青い目が無表情にこちらを見つめている。 

 もう、話ができないふりをする必要などなかった。 

 彼は俺が技術官を面と向かって侮辱するところを見ていた。 

 彼は黙って俺達のところに来て、ナンバーズの死体を見下ろした。 

「あんたの隊の兵だったのか」 

「そうだ」 

 彼はひざまずいて、ナンバーズに触れた。その死を確かめて、立ち上がる。 

「そんなことをしなくても、いいだろう。監督官なのだから、自分の“陰”が死んだらわかるはずだ」 

 コルトはちらりと俺を見てため息をついた。 

「なんでおまえがここにいるのだ」 

「え、っと、あたし達は・・・」 

 口ごもるリースにすかさず助けを出す。 

「知らせが来た。この砦が帝国軍に襲われていると、それで、ここまで救援に来た」 

 嘘ではない。ただクリアテス教軍を助けるつもりはなかったというだけのことだ。 

 いつものように無表情を装ってコルトの反応を見る。 

 彼は俺とリースの表情を読んで、またため息をついた。 

 彼が小さく合図をすると、彼の兵たち達は散っていった。 

 残ったのは監督官《マスター》を守る護衛兵の一名だけだった。 

 少なくとも敵対するつもりはないようだ。 

「・・・救援か。ケットの砦にも知らせが行ったのか。ずいぶん早かったな」 

「戦況はどうなっている」 

 俺は質問をした。 

「膠着状態だ」 

 彼はさらりと説明した。 

「敵とは塔を挟んでにらみ合っている。今は関の中央をどちらが押さえるか小競り合いをしているところだ」 

「あんたの兵、斥候兵なんだろう? なんで、こんなところに必要なんだ?」 

「敵の残党のあぶり出しと、後方支援のためだ。予想以上に砦の中は入り組んだ構造になっている・・・ああ、なんでわたしはおまえにこんな話をしているんだろうな」 

 コルトは頭を振った。 

「コルト神父様、敵は堰を壊そうとしていると聞きました。それは本当のことですか」 

 リースが尋ねる。 

「帝国軍が堰を? 誰がそんなことを言っていたのだ?」 

「ケットの砦に知らせを伝えに来た兵士です。帝国軍が堰を決壊させて、下流に洪水を起こさせようとしていると・・・違うのですか?」 

「・・・帝国軍が堰を。そうだな。それはあるかもしれない」 

 コルトは兵士の死体があった扉を抜けて廊下を歩き出す。 

 俺達は慌てて後をついていった。 

 彼は自分の兵を呼び止めると、何かの命令を下した。斥候兵は物も言わずにするするとどこかへ消えていった。 

「へぇ、斥候兵は単体で動かせるようになったんだな」 

「リース殿がおまえ達をばらばらに動かしていたのを見習っただけだ」 

 コルトは振り返りもせずにそういう。 

 そこから先はナンバーズと監督官が何人もすれ違った。かなりの部隊が出撃しているようだ。いくらナンバーズの気配は薄いといえ、これだけの数が集まっていればかなり騒がしい。 

 コルトは俺達を空き部屋らしい部屋に連れ込んだ。空いた木箱が積み重ねられている部屋だ。 

「おまえ達は、この部屋にいなさい。後で話をきこう」 

「へぇ、俺達を前線に送らないのか?」 

「リース監督官は、部隊編成に入っていない。作戦を知らない者が動くのは危険だ。なにしろここから先は強い敵しかいない。おまえ達では太刀打ちできないだろう。もっとも、」コルトは小さく笑った。「おまえのあの芸当を見せてくれるのならなんとかなるかもしれないが」 

 ああ、決闘の時のあれか。あれは、決闘という限定した場面だから効果のあった戦法だ。長い時間戦う戦場ではあの力と魔力はとうてい保持できない。 

「リース殿、少しいいかな」 

 コルトはリースを連れていったん部屋を出た。俺達に聞かせたくない話があったのだろう。 

 俺がこっそり扉に耳を当てていると、サクヤに首を押さえられた。 

「シーナ、悪い子。盗み聞き、よくない」 

「いいじゃないか、何を話しているか、気にならないのか?」 

「コルト監督官、いい人。シーナ、コルトさん、嫌いか?」ゴローまでそんなことをいう。 

 仲間の二人からにらまれて、俺は渋々扉から離れて窓のところへ行って外を覗いた。 

 ちょうど正面に巨大な堰が見えた。それは俺達の世界でいう堰の上には向こう岸へ渡る橋と建物が合わさったような建造物が乗っている。まるで俺の世界のダムのようだ。ただ違うのは、堰の端だけではなく、中央にも小型の塔が立っているところだった。 

「ちょっと、何をしてるのよ」 

 リースの怒ったような声に俺は振り返った。 

「なにをって? 外を覗いていただけだ・・・・・・うわ」 

「向こうからもあんたのことが丸見えでしょう。馬鹿じゃない」 

「何を怒ってるんだ。リース」 俺は文句をつける。「コルト監督官との話はどうだった?」 

「あんた、聞いてたんじゃないの?」 

「俺が? まさか」俺は無実を訴えた。「そんなこと、毛ほども思っていないぞ」 

「まぁ、いいわ。コルト監督官からの話を伝えるわね」 

 リースは俺達を部屋の中央に集めた。 

「ここに、ロイス技術官が来ているんだって」 

「うわ、あいつが・・・・・・」俺は顔をしかめる。 

「彼はあなたたちのことが大嫌いなのよ」 

「安心しろ、俺も、あいつのことが嫌いだ。あのクソ野郎の顔なんか拝みたくもない」 

「嫌い。同じ」ゴローも同意した。 

「いや、あんた達が嫌いかどうかは別として、彼がいるということが問題なの。彼はあなたたちのことを恨んでいるわ。さんざん恥をかかせた相手だもの。顔を合わせたら、ただではすまないと思うの」 

「奴はどこにいるんだ?」 

「この奥で帝国軍と戦っているみたいよ」 

「技術官が?」 

 俺の知る限り、あいつらは監督官として表に出ることはなかった。危険なことは監督官にやらせて自分たちは建物の中に引きこもっている、そんな印象を持っていた。 

「新種を試しているらしいの」 

「本当にクソだな」 俺は断言した。 

 俺としては、あのロイスに肩入れするのは反対だ。 

 人を人とも思わないあいつの下で動くのは命の危険を感じてしまう。 

 だが、村は守らないといけない。悔しいが、優先すべきことは見えていた。 

「リースはどうしたいんだよ」 俺はきく。「俺達は、ここの堰を壊されることを阻止するためにここにやってきたんだろ。おまえはどうしたい?」 

「あたしは・・・・・・」 リースは言葉を切った。 

「クソ野郎のことはとりあえず置いておいて、俺達のできることを考えよう まず、考えないといけないのは堰を守ることだろう」 

「リース、わたしたちのことはいい。わたしたちは、あなたの兵隊、だから、あなたのために戦う」サクヤはにこりと笑う。「リースはどうしたい?」 

「あたしは・・・・・・」 

「おまえが後悔しないほうを選べばいい」俺は軽い調子で言った「監督官様の、お望みのままにってことで」 

「そんなに軽口をたたかないでよ リースが怒った。 

 そんなことくらいで怒るとは思わなかった。 

 俺は、慌てた。どうしてしまったんだ? リース。 

「リース、俺達も、あの村のこと大切。俺としては、あの村、守りたい。堰壊すの、反対。」 ゴローがリースをなだめる。 

 「わたしも、そう。シーナもそのはず」  

「そ、そうだな」 

 俺は、サクヤの圧力に同意した。 

 「シーナ、まじめな話を乱すのよくない」 

 サクヤが先生のように厳しい口調で注意した。みんなににらまれて俺は小さくなる。 

  俺達は、コルトを捜した。 

 幸いにもコルトはまだこのあたりを離れてはいなかった。俺達は彼に作戦に協力したいという旨を告げる。 

 コルトはリースの顔を見て聞く。 

「それでいいのか?」 

 リースはうなずく。 

「彼らをなるべく、危険から遠ざけようとは思っています。でも、わたしたちはこの関を守りたい」 

 コルトは棒で床に地図を書いた。 

 この堰で人が出入りできる区画は二層になっている。一つは堰の上を通る区画。もう一つはすぐその下にある区画だ。どちらも中央の塔をとおして向こう側の塔と行き来できるようになっている。 

「そして、中央の塔がこの堰全体の結界を維持する要となっている」 

 コルトは簡略に書いた図の塔の部分を棒でつついた。 

「今わたしたちがいるのは下の層のこちら側の塔の入口だ」 

 コルトはそれから上の層を指した。 

「今、ロイス技術官達主力はこちらの上部を攻めている。 

 昨日までは下の道を重点的に攻めていたのだが、恐ろしく敵に強い奴がいてな。帝国の将だ」 

 恐ろしく強いと聞いた時点で俺の頭の中にあの男の顔が浮かんだ。 

 確かに、あの男には勝てる気がこれっぽちもしなかった。 

「あいつと出くわさないほうといえば、下から行くしかないか」 

「あんた、その強い奴と戦って勝てる自信があるの?」 

 リースがびっくりして俺の顔を見る。 

「いや、ぜんぜん」 

 でも、いきなり自爆装置を作動させる奴と出会うよりはましなような気がする。 

「正直、おまえ達がいってどうなるものでもないようなきがするのだがね」 

 コルトが忠告する。 

「俺達は少人数だし、個別で動けるという利点がある。今までのナンバーズの動きを見てきたけれど、集団で動くと強いけれど、個人ではそれほどでもないと思うんだ。だからこの前みたいに、俺みたいな格下相手に負けることになるんだ」 

 俺の話を聞いたコルトは、苦笑いを浮かべた。 

 「この前のは、個別戦闘もできるといって改良された種だったのだがね。 

 おまえ達なら何とかしそうな気がするのは不思議だよ」 

「まぁ、本当に無理そうだったら、戻ってくるさ。リースの命を危険にさらすことはしないよ。もちろん、サクヤとゴローもだ」 

 俺は、リースの険しくなった表情を見て慌てて付け加えた。 

「わたしはここを動けない」 

 コルトは真剣な表情で俺達に告げる。 

「わたしに与えられた任務はこの地点の守りだ。気をつけていくんだぞ」 

 俺達はコルトと別れた。 

 湖を堰き止めている防波堤の中へと潜り込む戸口に近づいたとき。リースが俺達を止めた。 

「待って。三人ともこっちに来てちょうだい」 

 リースは俺達を招く。 

「これからは、あなたたちが自分の頭で考えて心で判断して、最善と思える道を選んでちょうだい。いい、命令よ」 

 彼女は腕輪に手を当てて命令する。 

「聖霊の導きが、あなたたちの行く末にありますように」 

 そういって彼女は腕輪を外した。 

 そして、剣を抜いて腕輪の宝石に突き立てる。 

 石の表面に亀裂が走って宝石は完全に砕けた。 

「なにをするんだ」 

 俺はあっけにとられて壊れた腕輪を見つめた。 

 「これで、自由よ」 

 リースは俺達に告げる。 

 「わたしはもう監督官じゃない」 

 「そうだな、俺達は仲間だからな」 

 俺はリースの頭をたたいた。 

 リースはくすぐったそうに肩をすくめた。 

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