第1話 追放

「フランカ・セレニティ・サン・レイノス・レオン、お前との婚約を破棄し、皇妃候補の地位をはく奪する」

 壇上で光り輝く翼を広げた王子は人々の目を集めていた。

 光の王子、その名前にふさわしく、その場にいるだれよりも輝きを放ちまぶしいほどだった。

 その腕に、同じように輝く愛らしい乙女を抱きしめている姿は、星の御子の名にふさわしい。

 彼らに断罪されている少女もまた、金色の髪と輝く瞳持っていたが、彼女の光は星というよりも光を反射する月だった。

「お前は、お前の家は、われら、星の家を欺いた」王子は冷然と少女を見下す。「まがい物であることを隠し、光翼を持つかのようにふるまった」

 ひざまずいている少女の口が、かすかに動く。

「まだ、抗弁するつもりか」

 王子は、わざとらしいため息をつくと、後ろに向かって手を振った。

 もう一人のお仕着せを着た娘が前に押し出される。娘もかわいらしい顔立ちをしてはいたが、光り輝く人たちに囲まれてくすんでみすぼらしく見えた。

「イアンヌ……」

 断罪されている少女は目を見張った。彼女の家のお仕着せを着た、彼女のための侍女。この場にはいないはずの娘だった。

 侍女の口が、おゆるしください、と音のない言葉を発する。

「お前は、彼女の光を借りて、まがい物であることをごまかしてきたな」

 王子が目で合図をすると、召使であった少女は下を向いて震える手で身に着けた腕輪をはずす。それをすがるように見つめていた少女は小さな悲鳴のような音を上げた。

 彼女の輝いていた髪の色がじょじょに色を落とし、暗いものに変わっていく。小ぶりではあるが、優しい光を放っていた光翼も暗くなっていった。

「まだらだ、まがい物だ」誰かが非難とも、憤りともとれる言葉を吐いた。

「冒涜だ」

「星を欺いている」

 ささやきが広がり、あちらこちらから怒りの声が上がり始めた。

 王子の腕の中で輝く少女はおびえたように顔をそむけた。そんな彼女の髪をそっとなでながら、光り輝く王子はそこだけ沈んだように見える目の前の少女に声をかけた。

「年の若いお前がたった一人でこのようなことができるはずはない。お前の罪があるとすればそれは親に帰するものだろう。まがい物をこのような場所に送り込んだのはすべてお前の家の罪だ。星を欺こうとした罪は万死に値する」

 話がどこに行こうとしているのか察したのだろう。うつむきかけていた、今や黒い髪に変わりつつある少女は顔を上げた。

「違います。それは、私だけの罪。私の家は関係ない。すべて、私の不徳の致すところ……」

「哀れな子だ。己が利用されていることにすら気が付かないとは」

 黙って話を聞いていた白いひげを蓄えた大司教がつぶやいた。ひそやかなつぶやきだったが、声は込められた魔力で少女の訴えをかき消す。

 死に物狂いで抗議する少女はどこかへ連れていかれ、残されたのは悲しげにたたずむ星のように光輝く者たちだけであった。

 突然、今までかすかに映っていた映像に霧がかかった。

「ええ? こんなところで?」

 僕は映像を映し出していた装置を揺さぶる。一瞬、今までよりも鮮明に映し出された映像はまた灰色の霧に呑まれ、ついには消えた。

「ちょっと。いいところだったのに」

「アーク、おまえ、そんなものをみてるのか? いつもの断罪裁判の映像だろう」

 そう指摘されて僕はしぶしぶ装置から手を離した。

「いや、久々に、光板に映像が映ったと思ったら、これだよ」

 これなら、貧民街の巨大光板の映りのほうがましだった。いつものようにほとんど機能していない装置にとどめの蹴りを入れたら、装置は完全に沈黙した。

「おい、それを修理するのは、お前の役目だからな」

 できるわけもない仕事を押し付けられる。もっとも直したところで、すぐに壊れるのは目に見えているのだけれど。

 僕以外に、映像に興味を持っているものはいないようだった。こことは、縁のないレベルの高い者たちの生活など見ても何の意味もないからだ。

 ただ、僕は今日気が付いてしまった。この映像が夢の中に出てくる“僕”の知っている“悪役令嬢”ものに似ていることを。

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