ジョーカーを見てきた

日記
映画『ジョーカー』本予告【HD】2019年10月4日(金)公開
予告編です

 テレビでもさんざん宣伝をしている映画「ジョーカー」を見に行ってきた。

 普段は、新作は身に行くことはないのですけれど、これは面白そうだと思ったから。

 なにしろ、ヴェネチア映画祭で賞を取ったというのだから期待も膨らむというものだ。

 普通のハリウッド映画なら宣伝を見ただけでは見に行かないことにしている。宣伝と中身が違うじゃん、という突っ込みを入れたくなる作品も多いからね。アカデミー賞を取ったという作品もまぁまぁ参考にするくらい。(すぐテレビ放送される)

 でもカンヌ映画祭とかヴェネチア映画祭で賞を取ったといわれたら、ちょっと食指が動く。どちらかというと、ヨーロッパ系の映画のほうが見に行く価値があるような気がするのだ。ビデオに落ちるのも遅いし、配信もされないし。

 バットマンシリーズの前日譚という話も聞いていた。ジョーカーがいかにしてジョーカーになったか、という話になることも。闇落ちだと覚悟して、見に行った。

 見終わってからの感想。

 ものすごく心に残る映画だった。二度見したいとは思わないけれど。

 本当に、役者の演技が素晴らしい。主演ジョーカー役のホアキン・フェニックスをはじめとして、周りの役者もうまい。特に主役。これから、こんな役しか来なくなるんじゃないかと心配するくらいはまっている。精神的に不安定な主人公がさらに凶気へと駆り立てられていくその過程への演技が素晴らしい。

 映画の宣伝では心優しい一人の男がジョーカーという悪のカリスマになる話、みたいなことを言っていたが、精神的に病んでいる男をさらなるどん底に突き落とす話といったほうが正確だ。癖が強い役なんて言う表現も生ぬるい。中年、さえない男、貧乏。美形の美の字も出てこない主人公なのだ。

 仕事をこなして、老いた母親の世話をして、懸命に生きようとしている緊張すると笑いが止まらなくなる障害を抱えた男が、色々な原因が重なって、少しずつくるっていく。福祉の打ち切り、仕事の失敗。一つ一つは小さいことだけど、一本一本糸を切っていくように、狂気の方向へと。

 最初のころの狂気はまだ甘い。彼は自分が成功することを夢見る。恋人ができたり、仕事がうまくいったりする幻想を。彼があこがれているのはテレビの中のコメディアンの世界だ。それを見て笑ったり、成功を夢見たり、することができている。妄想の世界の中であってもだ。

 だが、後半は恐ろしく冷めた、甘い幻想を排した狂気だ。彼はもう甘い夢の中にはいない。自分が成功することや、恋人ができること、素晴らしい父親がいること、母親に愛されていたことをもう期待していない。有名なコメディアンであるマーレの番組に出るのも、コメディアンとして名を売るためではない。自殺して人々の中に自分を刻み込むためでもある。

 結局、その自殺幻想すらも彼は破壊してしまう。幻想を破壊して究極のコメディアンになる。彼の、彼による、彼のための、喜劇を演出するために。

 そのあたりの演技が本当にこの役者さんはうまい。何度も一人で踊るシーンがあるけれど、だんだん以前のバットマン映画で見たような気が狂ったジョーカーの踊りに近づいていく。踊りがさえてくる。かっこいいと思えるほどに。

 ピエロの表情も、最初と最後ではなんだか狂気度が違う。アーサーが壊れていって、ジョーカーが表面化していくのをこんな風に表現するなんて。

 舞台設定もいい。ゴッサムシティはバットマン物ではおなじみの場所だけれど、粋がった悪党どもが集う街ではなくて、普通のどこにでもありそうな嫌な街と化している。超人も、巨悪もない。どこにでもそれこそ日本にでもありそうで、だからこそいやな感じがじわじわとこみあげてくるそんな薄汚れた街だ。一度落ちてしまったら這い上がれない社会での絶望感が全編にわたって漂ってきて、それがこちらの心も侵食していく。他人ごとではない、そう思わせる空気が全編に漂う。

 普通のアクションものバットマンならここまでの既視感は得られなかっただろう。ダークな背景でも、派手な爆発や、カーチェイス、超能力やバットマンスーツのような万能武器、そういうアイテムがあればこれは架空だと安心して映画を見ることができる。

 でも、この映画にはそんなものはない。ジョーカーはただの人で、バットマンの父親はそのあたりにいそうな偽善的な金持ちだ。派手な犯罪をもくろむ悪の組織も一切出てこない。お決まりの銀行強盗もいない。出てくるのは、弱いものをいじめて遊ぶチンピラや、気に入らないものを殴る質の悪いインテリ。金持ち反対デモをする人たちもピエロの仮面をはがすと、どこにでもいそうな人たちだ。いかにもヒャッハーしそうなモヒカンをたてた野郎どもではない。

 要するにどこにでもある、町なのだ。

 これが怖い。どこにでも存在する街の中で、ひそかに狂気を蓄えている人たちがいる。疎外感からくる破壊衝動を抑えられない人がいる。そのこちら側の現実とリンクするからとても怖いのだ。

 例えば、秋葉原の事件、大阪の通り魔事件……理解できないとテレビが報じていた事件は、おきている。幸いにも今の日本にはピエロの扮装をして、デモをする怒れる人たちはいない。ジョーカーをたたえる人はいない。今は、まだ。

 最後になるけれど、本当にシナリオがいい。何度も伏線を貼りながら、少しずつ主人公を壊していくその過程がうまい。幻想と現実の境をうまく取り入れて、本当に薄皮をはがすように主人公を落としていく。こんな作品、かけるといいよね、というお手本のようなストーリー展開だ。

(でも、書いたら絶対に精神を病む。映画だからできるストーリーなんだけれど)

 それでなおかつバットマンの物語は壊さない。いずれバットマンになる予定のブルース少年と、少年と兄弟かもしれないジョーカー。二人が対立する光と影で、相いれない存在であることが、この映画を見ていてもわかる。虚実を織り交ぜて、二人がライバルとして対立する未来を見せている。本当にうまい脚本だと思う。美しい構成だ。

結論としては、一度は見るといい映画かな? ただし、精神的にダメージを受けるかもしれない。闇落ちを見たくない人は回れ右だ。

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