薔薇王の葬列 12巻

8月に発売された新刊をやっと読みました。 

 基本漫画は完結してからまとめ読みしているのですが、このシリーズは買っています。 

 なんといっても、この原案はシェイクスピアの史劇なのです。 

 それも、あの長大なヘンリー六世プラス超メジャーどころリチャード三世! 

ヘンリー六世の入り組んだ人物関係に挫折した身にしてみれば、絵で誰が誰だかわかるように整理されているのは素晴らしいの一言です。 

 原作の登場人物はヘンリーにエドワード、エリザベス、マーガレット……男も女もかぶる名前ばっかりで、誰が誰だかわからなくなる歴史を知らない日本人。 

 史実がそうなっているから仕方がないのだけれど、西洋人の名前のバリエーションのなさはどうにかならないかな。今度、ヘンリー6世の翻訳本が出るときは菅野文さんのキャラクターを張り付けて人物紹介を希望。 

 というのはともかく、きちんと原案を踏まえたうえで人物関係を作り直して、無茶苦茶骨太のストーリーにしているのがこのシリーズ。一応ファンタジーと書いてありますが、あまりファンタジーらしくはありません。魔法とか特殊な能力はほとんど出てこないうえ、きちんと当時の時代背景に沿って物語が展開しているからです。盛り込まれている最大のファンタジー要素はリチャードの性別でしょうか。 

 しかし、主人公のリチャードを両性具有にするなんてなんて大英断なんだ。この巻の中でも怪しい魅力で男も女も虜にしてしまうリチャード。もう、これからリチャード三世はこの路線で宝塚の人に演じてもらおう。アニメ化して全世界にこのリチャード像を広めて、史実を塗りつぶしてしまおう。イアン・マッケランやベネディクト・カンバーバッチは引っ込んでもらおう。(いや、こちらも好きなんですけど…まぁ) 

 妄想はさておき…… 

 12巻でいよいよリチャードは王の座に手をかけます。 

 それを阻んで、リチャードを亡き者にしようとする前の王妃エリザベス。 

 彼女の息子のエドワードとリチャード(また同名・・・)を使って狩りという名目のリチャード暗殺を計画する。 

 このエドワードとリチャード、戯曲の中ではとてもかわいらしい少年として描かれることが多いのです。後年描かれる絵画の中でもとてもはかない守ってあげたい存在。でも、この作品に出てくる二人は、さっくりと逝ってくださいといいたい性格です。いいね。このくらい憎たらしかったら、退場しても誰も文句を言いそうにない。ロンドン塔に巣くう小鬼になりそうだけど。 

 森の中の狩りのシーンは、シェイクスピアの真夏の夜の夢を思わせる妖精三昧の仮装で、とても楽しいです。中で行われることはかなりシビアで胸糞悪い話ですが。 

 この話の中で一番格好良かったのはアンでしょうか。息子と夫を守るために自分の立ち位置を決めるアン……強い女の人、大好きです。原作のうまい言葉に騙されて結婚したアンよりも、こういうアンのほうが好き。 

 でも。 

 あとで、王妃となって自分の身を嘆く原作シーンの再現とかあるのかなぁ。リチャードの枕元に立って、絶望して死ねとかいうのかな。 

 それをいうなら、この話の締めは原作通りになってしまうのか、それともファンタジーということで救いを残すのか。 

 生き残っているヘンリーがうまく絡んで、女性のリチャードだけでも生き残ってほしいなぁ。 

薔薇王の葬列12 菅野文 秋田書店 プリンセスコミック 


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